2019年7月5日金曜日

令和元年 春興帖 第七(木村オサム・真矢ひろみ・水岩瞳・家登みろく)



木村オサム
掬ふたらけむりになりし春の水
天界の耳を咲かせる大桜
あさっての真夜が見頃と桜守
モザイクをかけられし村春の風
満開の桜の下の手術台


真矢ひろみ
還るのか産むのか春泥キラキラす
にがよもぎ高音伸びる初音ミク
県道に大蛙をり海苔弁当
 

水岩瞳
初蝶や犬の鎖を解き放ち
若芝の真ん中猫が座を正す
昇降機途中で止まる三鬼の忌
わたくしも二つのおもて月日貝
ゴールデンウイークお出かけは三千歩


家登みろく
戯れて拗音多き春の泥
蘖や人の世を捨て人となる
そぞろ神枝垂桜を揺らしづめ
あてどなき旅の途桜また桜
空磨くごとく手を振り昭和の日

2019年6月28日金曜日

令和元年 春興帖 第六(内橋可奈子・福田将矢・とこうわらび・工藤惠)



内橋可奈子 (夜守派)
環状線乗り場を探す四月尽
桜蘂降る平成のバス降りる
板張が緩む五月が来たらしい
五月にもこんなにひとがいるなんて
蒲公英を弄る皆んながみてるのに
いさらいの片側を触る五月闇
粗筋も曖昧皐月躑躅吸う


福田将矢(夜守派、301)
轍跡蝌蚪干からびてひとつふたつ
掬われて人に飼われる蝌蚪となり
廃村に蝌蚪の犇めく水のあり


とこうわらび(夜守派)
十三大橋にのせて春分
真っ青うねる四次元のソーダ水
見下げるや月下美人はまだ枯れず
梅雨めいて赤信号のわめきたる
夏の陽に縫い付けられし椅子ひとつ


工藤惠(船団、夜守派)
初夏のトランペットを草原に
まっすぐに行けば東京聖五月
ぽかぽかと恋人なぐるさくらんぼ

2019年6月21日金曜日

令和元年 春興帖 第五(浅沼 璞・網野月を・堀本 吟・川嶋健佑)



浅沼 璞
一斉に目刺しなくなるカウンター
硝子戸をのぞいてぬけて春の風
このところ寝返りうてぬ涅槃かな
受付のあたりを花の散りぬるを
伊吹山横へと花のねぢれたる
布引の滝たらすなり春の宵


網野月を
いまの嬰は四頭身よ岩燕
一輪挿に活ける野の草春暑し
春陰の人地下鉄の出口から
薄荷タバコ貰って吸わぬ花曇
くじらの絵探して歩く残花かな
競い合う二人の婿や潮干狩
わたしにはかえるとこある若緑


堀本 吟
春風の見送りに来る令夫人
あのように拐って笑う夕桜
三月去るよくあることよくないことも
 二〇一九年三月六日暁 川柳家筒井祥文氏死。一句
畏友ともなれば戦死と言わん春嵐


川嶋健佑(夜守派)
春は名ばかりベッドの数が足りないぞ
このハサミななめに蝶を切り刻む
都市は箱おおきな桜活けておく
白魚の濁って遠い国でテロ
怒髪天突けば苺が暮れ泥む
黒揚羽ただ残像を置いてある

2019年6月14日金曜日

令和元年 春興帖 第四(前北かおる・坂間恒子)



前北かおる(夏潮)
春の蠅ぷいと失せたる日なたかな
春昼の千住あたりのガスタンク
お見合ひによき日楓の花の紅


坂間恒子
緑立つ令和の空気壜に詰め
松の芯「令和」墨書の払いかな
令和なり茹で筍を子に送る

2019年6月7日金曜日

令和元年 春興帖 第三(田中葉月・大井恒行・岸本尚毅・ふけとしこ)



田中葉月
桃色のわんこのお腹春深し
春陰のまた残りたるパンの耳
てふてふや湖面をわたる風になる
春の月どんぶらこつこどんぶらこ
押印のまたも傾く葱坊主


大井恒行
空・草木・海・風こだま連帯す
春北風の影となりたる鳥ばかり
山葵田の風こそ令和四月尽く


岸本尚毅
海霞むはるかに靴のやうな舟
春の日や下向く犬に石が照り
供華古び樒の花の咲いてをり
メーデーが来るビルに棲む老人に
カルデラや鶯鳴いて雲湧いて
カルデラの蝶々の今はるかなり
うつくしき母にもたれて日永の子


ふけとしこ
一坪で足りる商ひ遅日なる
熱々のドリアへ匙を花の雨
たんぽぽのうしろよ鬼の隠れしは

2019年5月31日金曜日

令和元年 春興帖 第二(杉山久子・辻村麻乃・乾草川・池田澄子)



杉山久子
春昼や小屋に混み合ふ鶏の脚
御中の御の字ゆるぶ目借時
永き日の百円ショップに迷ひをり


辻村麻乃
春の雷
春の雷程よく濡れてアスファルト
柳人の美しきブラウス春の雷
春の雷河童がついてきたやうな
片瞼上げて男の春の雷
春雷の女の頸光りたる
春雷の駅に飛び込む女学生


乾草川
生来の火群滅びず薔薇・アリア
魂のどの睡蓮に宿らうか
シャガールの鬱巡り来ぬ蝶となり
大地焼き締めたる備前アンタレス


池田澄子
よく晴れて桜葉が出て平成尽
改元のファミレスで逢いマンゴージュレ
直方体の水に和蘭獅子頭
命令に背かぬ犬と青嵐
青あらし和気藹々の烏どち

2019年5月23日木曜日

令和元年 春興帖 第一(仙田洋子・松下カロ・曾根毅・夏木久)



仙田洋子
白梅のうしろ大きな山のあり
戦争のあとは紅梅ばかり咲く
祈るほかすべなき我ら鳥雲に
真つ先に帰つてゆきし新社員
猫の子ら眠りゐて三連音符
たんぽぽは小さき太陽踏までゆく
たんぽぽの絮吹きあます子供かな


松下カロ
敵なくて苺にミルクたつぷりと
地球なほ回るひばりの卵乗せ
秒針もオタマジャクシも帰らざる


曾根毅
昏昏と舟沈みゆく雪柳
つちぐもり次々に核廃棄物
情交のはじめにありし藤の房


夏木久
椿落ち白磁の皿を泳ぎをり
其処からは闇と知りつつ花筏
アルバムの文字は朧を踊りだす
トライアルに出来ぬ現世や鳥雲に
保守的な廊下の奥や凝視しやる
夏立つ他何の匂ひも立たず門
描き直す犀棲む森の風景画