2022年2月11日金曜日

令和三年冬興帖 第一/令和四年歳旦帖 第一(飯田冬眞・仙田洋子・神谷波・小林かんな・加藤知子)


【冬興帖】
飯田冬眞
洗っても落ちぬ傷あり冬来たる
時雨忌や渡るべき橋あといくつ
冬の水一篇の詩に立ちすくむ
殴られてまた殴られて帰り花
極月や家族写真も燃えるゴミ
ここからが旅のはじまり白き息
今日の日を忘るるための日記買ふ


仙田洋子
折紙の鶴のぽつんと開戦日
冬田道どさりと犬の死骸あり
スターリンの肉声を聞く寒さかな
招福の猫かも知れず竈猫
惑星のごと柚子浮かぶ柚子湯かな
降誕祭星々の馳せ参じたる
亡骸は亡骸のまま寒に入る


神谷波
椎の木のまつさきに暮れ冬めきぬ
タンポポのほんわかほんわか狂ひ咲く
姿無き人の耳打日向ぼこ
枯野来し手先足先無影灯
心しかと閉ぢ短日の無影灯


小林かんな
ひとたばの花光州の朝霧へ
三島の忌熱い茶碗が盆の上
ジョニー待つ二時間冬の鴎たち
暖炉向く安楽椅子とリボルバー
餅うんと伸ばす蟄居の三年目



【歳旦帖】
仙田洋子
鳳凰も龍も飛びゆく初日かな
初社恋の神籤を引きに来し
鏡餅大いなる罅はしりけり
淑気満つ字体も古き神谷バー
酒の名のどれもうれしき初句会
駅伝のたすき真白き淑気かな
玉の緒のひたくれなゐに弓始


神谷波
数へ日の虹のアーチの下に墓
初めての日の降りそそぐ雪の嵩
 三重の名酒 「作(ざく)」
あらたまの年の喉越しふわと「作」
人参の麗々しくも三が日
引立て役の膾金団お正月


加藤知子
眩しくて見えない闇を迎春
初詣清め給えは中くらいで
初夢へ右折するなら入れません
初夢の蝶の憂いはギンギラ銀

2022年2月4日金曜日

令和三年 秋興帖 第十一(飯田冬眞・佐藤りえ・筑紫磐井)



飯田冬眞
ことごとく闇の供物や流燈会
歪みても戻る治癒力踊の輪
かさぶたのどこかが濡れて鵙の贄
剣もたぬ身やさいかちの実を垂らす
捨案山子裏地に龍の刺繍秘め
釜めしの蓋に貼り付く夜寒かな
身にしむや郵便受けにガムテープ


佐藤りえ
いやにしづかに物理の神は後の月
やや寒くロリポップ嚙むふつうの子
登高やあれが富士よと云ひつのり


筑紫磐井
菊薫る菩薩 前衛なかりけり
月夜野のあぶら屋に似て非なる怪(くわい)
宇井博士 遠く白いは秋の道

2022年1月28日金曜日

令和三年 秋興帖 第十(家登みろく・林雅樹・水岩 瞳・竹岡一郎)



家登みろく
愛称で呼び合ふ故老秋夕焼
秋澄むや猫ことごとく眠る昼
霧いまだ遠しと見るに霧の中
鱗雲遅々時の気の人いきれ
鬼灯や歌詞おぼろげに子守唄


林雅樹(澤)
秋の野に現れ脳味噌のない男
不知火を見る脳味噌のない男
竃馬夜の便意の切なしよ


水岩 瞳
西鶴忌浮き世憂き世のなかにゐて
長き首の上に置きたる秋の顔
草は実に人間何に変はりゆく
貼り紙の閉店します零れ萩
秋の夜のメールほんならまた明日


竹岡一郎
不可視の空襲盆の陶酔電磁波の
円滑に進む屠殺も豊の秋
児を攫ひ匿ふ化鳥へと鳴子
金風にくすしら己が口を縫ふ
偉いらしくリモート画面では雁瘡
看護婦嗚咽冷えた薬瓶取り落とし
救急車タイヤ摩耗の長夜奏

2022年1月21日金曜日

令和三年 秋興帖 第九(望月士郎・前北かおる・のどか・仲寒蟬)



望月士郎
鳥渡る骨のかたちをして綿棒
蕎麦の花われもだれかの遠い景
てのひらは生まれた町の地図とんぼ
すいみつとう心的外傷的に剥く
夕花野ときおり白い耳咲かせ


前北かおる(夏潮)
貝塚に人も葬り鉦叩
秋蝶も雲も真白にあらざれど
団栗を一万年も煮てゐしか


のどか
だまし絵のなかに息ある枯蟷螂
ひとけりに超ゆる子午線飛蝗かな
コロナ禍ののこつたのこつた泣き相撲
病魔調伏四股高々と宮相撲
死にしふり演じ冬蝿逃げにけり


仲寒蟬
水澄むやかつて都を映せしに
道なくば作るまでなり葛の花
どこまでが庭どこからが野分の野
幾重にも塔にひぐらしからまりぬ
秋の川跨げるところまで歩く
月に雨書かれぬ前の継色紙
晩年の庭露草のあればよし

2022年1月14日金曜日

令和三年 秋興帖 第八(井口時男・小野裕三・関根誠子・田中葉月)



井口時男
ひぐらしの鳴かぬ国なり自爆テロ
胃袋へ黒蔦が這ふ今朝の秋
身を宙に吊つて南瓜の蔓太し
マスクして金木犀の花を過ぎ
匍匐して花野に斃れ帰らざる
鬼柚子がごつごつとあるでんとある
肩先に月尖らせて少年は


小野裕三
のど自慢すぐに退場野分晴れ
しゃあしゃあと案山子となっていたりけり
台風の色蹴散らして進みけり
逆さまに生き物吊るす秋彼岸
啄木鳥やきれいさっぱり失恋す


関根誠子
鉄を組む男等ひかる野分晴
朽葉まじりに蟬の死の簡単なこと
秋酒場毒飲むやうに微笑んで
駅裏は落書の通ねこじゃらし
秋の空宇宙の色の混ざりをり


田中葉月
つくづくひとりつくづく水草紅葉かな
六道の辻に誘ふ蛍草
秋蝶や疵に届かぬ舌なんて
月光や一角獣をさがしゆく
嬰児と鏡のあはひレモン置く

2021年12月31日金曜日

令和三年 秋興帖 第七(依光正樹・依光陽子・渡邉美保・辻村麻乃・網野月を)



依光正樹
秋の蟬雨の間を少しづつ
行列が出来るパン屋も秋のこゑ
肌寒の着るべきものを腰に巻き
朝寒の小鳥の寄つて来たる家


依光陽子
刈り込んで金木犀や木の白き
秋蝶降下翅を失ふ日のための
無患子や木目を暈す雨の綾
木のかなた風のかなたの運動会


渡邉美保
露けしや夜の切株に棄て鏡
秋深しガラスの兎の耳の欠け
秋惜しむ高野豆腐を煮含めて


辻村麻乃
爽籟や秘仏の眠る奥の院
砂利を踏む音の疎らや秋日和
秋蟬の地に木霊して神楽殿
生まれるか今生まれるか台風圏
時限爆弾の如き孕み娘秋の虹
観音のやうな稚児ゐて九月尽
皆どこか軋みを抱へ天高し


網野月を
開かぬように雌ネジを嵌める牽牛花
性別は別せぬものに星祀る
外連味は無くしてしまへ黄コスモス
何もない畳の部屋や秋座敷
浦和にも夜霧に礼を言う奴が
心臓のあたりの痛み山粧う
秋の蝶脚に加わる力かな

2021年12月24日金曜日

令和三年 秋興帖 第六(眞矢ひろみ・岸本尚毅・小沢麻結・下坂速穂・岬光世)



眞矢ひろみ
AIの狂走止まる芒原
柿剥けばしづかに充ちてゆくちから
古伊万里の秋の金魚になりすます
誰何受く昇りきったる銀漢に
水澄みて三千世界迫りくる


岸本尚毅
外を見る猫を我見る秋の暮
歯を見せて太刀魚長し鯛の辺に
日は釣瓶落しや蜂は狩りながら
信厚く羊羹食うて秋遍路
柿供ふ白く綺麗な空海に
這ふ蟻に熟柿の皮の裂目あり
帽の子に秋潮深く澄めりけり


小沢麻結
ドビュッシー聞こゆるロビー秋の夕
虫時雨二階の浮かみゐたるかな
実椿や渡し場跡は川遠く


下坂速穂
おはやうとおはやうさんと冬支度
深秋の紅き蕾や明日も蕾
花と花噛み合うてをる曼珠沙華
すぐそこのはるかな月の光かな


岬光世
葉を影に影を楓に秋澄めり
無風なる人を離れぬ蜻蛉かな
仙人掌の爪立つときを星流れ