中村猛虎卵巣のありし当たりの曼殊沙華
余命だとおととい来やがれ新走
脊椎の中の空洞獺祭忌
モルヒネの注入ボタン水の秋
新涼の死亡診断書に割り印
鏡台にウィッグ遺る暮れの秋
深秋の遺骨に別れ花の色
仲寒蟬すぐ切れる輪ゴム八月十五日
ひぐらしの染み込みしシャツ洗ひをり
裏口の奥に裏山稲の花
大窓に葉のへばりつく野分あと
星屑を掃く音かすか新走
どの人の項も月は知つてゐる
虫の闇別のひとつに呑まれけり
堀本 吟もしもしと叢にいて藤袴
夕方の風を見にゆく吾亦紅
鶏頭やざんばら髪の主人公
鬼やんま目を剥く地球はどうみえる
皮蛋は鶉の卵ヨコハマに
田中葉月栗名月ひらたいかほで正座して
ポニーテール爽やかに影きりにけり
引力に逆らつてみる草の絮
満月の音に触れゆく美術館
望月士郎優先席ちょっと迷って南瓜を置く
駅前ロータリー月光のシャーレ
晩年の赤いゆらりと烏瓜
夫の口に南京豆を投げ省略
どの夜のどの星の下に孵ろうか
十三夜深海魚から泡ひとつ
ゆく秋の色鉛筆の十二使徒
筑紫磐井幽明に松茸売りの声がして
太郎・次郎なら 芸術はパンプキン
誰も知らぬ井荻の駅に秋顆いろいろ
佐藤りえ鳥になる鳥鳥にならない鳥跣
串カツが光つて見える喉に月
穭田にたまさか鳥も走りたい
もういいと桜紅葉も云つてゐた
折り紙で水を折れよといいしかと